シャケトラの死と競走馬の命
今日の昼頃、衝撃的なニュースが報道されました。
競走馬シャケトラ号の安楽死処分です。
第1指骨の開放骨折及び種子骨の複雑骨折を発症したとのことでした。
1週後に控えた天皇賞(春)に出走登録されており、上位人気が見込まれていました。
デビューは遅れて3歳の6月。新馬戦*1はもう終わった時期です。これには勝ち、その後も条件戦を調子良く勝ち抜き、4歳3月のGIIレース日経賞に勝利します。
そしてこの年(2017年)GIレースに多数挑戦しますが、馬券になることはありませんでした。
リベンジを誓った2018年、シャケトラは骨折してしまい、1年間を棒に振ります。
しかしそこから回復。2019年AJCC、阪神大賞典とふたつのGIIレースに連勝し、これからGIタイトルをとるぞ!という矢先の悲劇でした。
まさに「これから」の馬だっただけに、悲しいことこの上ありません。
なんで骨折で安楽死させなくてはならないのか
馬についてあまり詳しくない方は「どうして骨折ごときで安楽死させなきゃいけないの?」とお思いになるかもしれません。
サラブレッドは500kg前後の巨体を細い4本の脚で支えています。
そのため、そのうち1本が重度な骨折あるいは脱臼をすると、残り3本の脚へ大変な負担が起こってしまいます。
すると蹄葉炎などのより重い病気を発生させて、より残酷な最期を迎えてしまうことになってしまうのです。
もちろん治療させようとした事例もありますし、上手くいった事例もないわけではない*2 ですが、稀な上に費用に対して成功率はとても低いです。
有名なのは70年代のスターホース、テンポイントの最期でしょう。
骨折の程度は折れた骨(第3中足骨)が皮膚から突き出す(開放骨折)という重度のもので、日本中央競馬会の獣医師は安楽死を勧めたが、高田が了承するのを1日保留している間に同会にはテンポイントの助命を嘆願する電話が数千件寄せられ、電話回線がパンクする寸前になった[51]。これを受けて同会は成功の確率を数%と認識しつつテンポイントの手術を行うことを決定した[52][51]。
(中略)
手術は一応成功したと思われ、2月12日に医師団は「もう命は大丈夫。生きる見通しが強くなった」と発言した[56]。
(中略)
2月13日に患部が腐敗して骨が露出しているのが確認され、同月下旬には右後脚に蹄葉炎を発症して鼻血を出すようになるなど症状は悪化の一途をたどった。3月3日には事実上治療が断念され、医師団はそれまで行われていた馬体を吊り上げて脚に体重がかからないようにする措置を中止し、テンポイントを横たわらせた[58]。
3月5日午前8時40分、テンポイントは蹄葉炎により死亡した。安楽死は最後まで行われず、自然死であった。骨折前に500kg近くあった馬体重は死亡時には400kg[59]とも350kg[60]とも300kgを切る[61]とも推測されるまでに減少し、馬主の高田が大きな犬と思うほどに痩せ衰えた[62]。
以上のように残酷な最期を辿ることになってしまわぬよう、安楽死という形を取らざるを得ないわけです。
わたしたちにできること
完全に怪我を避けることはできません。悲しい死を遂げてしまった競走馬たちの生き様に敬意を示し、その存在を語り継いでいくことで、生きた痕跡を残していくことしかできないでしょう。
一方で、怪我以外の理由でもいのちを失ってしまう競走馬がいます。
レースで勝ち抜くことが出来なかった馬の中には行方知らずになってしまう馬もたくさんいるのです。
そこで、こうした馬を保護しようという試みがなされています。
ハッピーライフプロジェクト*4もそのひとつです。
この試みでは引退馬のフォスターペアレントを募集したり、人と馬との触れ合いを促進したりしています。
こうした活動を知り、できる範囲で協力することもいのちを守ることに繋がるのではないでしょうか。
長くなりましたが、シャケトラ号のご冥福をお祈りするとともに、少しでも多くの馬が幸せにいのちを全うできることを祈っております。